原子爆弾は核エネルギーを用いた兵器ですが、そもそも核エネルギーとは具体的に何なのか、何故あのような強大な威力を生み出すのか?何故キノコ雲が出来るのか?そんな原子爆弾の仕組みについて、基礎から解説していきます。
なお本記事の一部は以下の書籍を参考にしています。
原子爆弾が利用する核エネルギーとは?
これには原子内部の「核力」が関係しています。聞きなれない単語だと思いますので、少し詳しく解説します。
原子は、原子の大きさのわずか1/100000サイズの原子核(直径わずか10兆分の1cm)を持ち、何故かその極小領域に陽子・中性子が固まって存在しています。
原子核中の陽子同士は同じ正の電荷を持っている為、電気的に互いに反発しあう力が生じます。
普通に考えれば、陽子は電気的な反発力を受けて原子核の外へ飛んで行ってもおかしくはないと思いませんか?
磁石をイメージしてください。N極とN極、S極とS極のように同じ極を持つ所を近づけると、互いの距離が近くなるほど反発力は増しますよね?
陽子は前述の通り、10兆分の1cmもの極小サイズの原子核に閉じ込められているので強力な電気的反発力が生じます。加えて陽子の数は原子核中に何個もあるので反発力は更に高まります。
原子核を形成する「核力」
しかしご存じの通り、陽子がどこかへ飛んでいき原子構造がバラバラになることはありません。
仮にそんなことが簡単に起これば物質世界は一瞬で崩壊してしまいます!
これは陽子や中性子を原子核中に閉じ込める「核力」なる仕組みが存在する為です。
陽子同士の反発力をかき消すレベルの非常に強力な力で押さえつける訳です。この核力があるお陰で物質世界は安定して成り立っているんです。
原子爆弾はこの「核力」に関連したエネルギー(=核エネルギー)を取り出すことで凄まじい威力を発揮します。
だから「核」兵器なんですね。ちなみに、「核力」の起源を世界で初めて解明したのはなんと日本人!しかも日本人初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹です。
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核エネルギーを取り出す仕組み
問題なのは、前述の核エネルギーをどうやって人工的に取り出し原子爆弾に応用するかです。
ウランを使った手法
人類が核エネルギーの取り出すためにとった手法は以下の通りです。
前述の通り、原子核中には陽子が多数存在し電気的反発が生じます。この陽子の数が多くなるほど電気的反発が増大し、次第に核力に拮抗し始めることで原子核が崩壊し易くなります。
自然界にまともに存在する原子の中で、原子核に最も多くの陽子を含むのが、【ウラン原子】です。*陽子は92個もあります。
つまりウラン原子は最も崩壊しやすい原子核を持つことになります。そこに中性子をぶつけることで原子核を崩壊させます。
なぜ中性子なのか?
中性子は電気的に中性なので原子核にぶつけ易いのです。※陽子では原子核中の陽子と互いに反発し軌道が逸れてしまいます。電子では質量が軽すぎて十分な衝撃が与えられません。
中性子をぶつけるとどうなるか?
衝撃により、原子核は小刻みに形状を変えながらブルブルと振動し、最終的にはピーナッツ状になります。これは陽子同士の電気的な反発により、原子核中の陽子が最終的に2つのグループに分かれる為です。
その後、同じく電気的反発によって2つのグループが分離し、2つの原子核に分裂します。これが【核分裂】です。
核分裂した後の2つの原子核にも核力は働きますが、元のウランに働いていた核力と差分が生じます。この差分のエネルギーが核エネルギーとして外部に放出されるのです。これこそが人工的な核エネルギーの取り出し方です。
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核分裂の連鎖反応
たった1個の原子核が分裂するだけでは、さほどの核エネルギーの放出にはなりません。
原子爆弾があれほど凄まじい威力になるのは、核分裂反応が連鎖的に起こる点にあります。
実は核分裂の際には核エネルギーに加えて中性子も解き放たれます。核分裂の際にはいったん原子核が壊れる訳ですから、そこから中性子が飛び出してきてもおかしくはないですよね?
そして、これらの中性子が他の原子に衝突するとどうなるか?更なる核分裂が誘引され、そしてそこから生じる新たな中性子が、、、、と核分裂はネズミ算式に連鎖するため、原爆はあれほどの威力になるのです。
通常兵器との威力の違い
通常兵器として使用される爆薬は、燃焼という化学反応によって「原子間の結合エネルギー」を取り出して爆発のエネルギーに変えています。この結合エネルギーはeV単位程度です。
一方で原子爆弾のエネルギーの源である「核力」は、原子1個の核力だけでもM(メガ)eV単位と、原子間の結合エネルギーの百万倍近いパワーがあります。
具体的には、核物質として使われるウラン235が1g分だけ核分裂したときに発生するエネルギーは、なんと石炭3トン分を燃焼させることで放出されるエネルギーに匹敵します。
通常兵器とは全くの別次元の威力を持った兵器であることがよく分かりますね。
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原子爆弾の構造的な仕組み
ウラン等の核物質は、一定値を超えた分量を1か所にまとめて置いておくと、中性子がきっかけで前述のネズミ算方式の核分裂が起こり、いわゆる核爆発が起ってしまいます。
一方で、一定未満の分量では核爆発は起こりません。そこで、原爆を爆発させる直前までは核物質を一定未満の状態で分けておき、爆発のタイミングでこれらを一体化させ核爆発を起こすように設計しておく必要があります。
例えばウランを2箇所に分けておき片方に火薬を取り付けます。火薬を爆発させれば双方のウランが一体となり一定の分量(臨界量と言います)を突破。これにより核爆発を起こす構造になっています。
ちなみに上記は広島型で、長崎型は更に構造が異なります↓。
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なぜキノコ雲が発生するのか?
原爆と言えばキノコ雲を連想しますが、そもそも何故キノコ雲が発生するのでしょうか?
キノコの『柱』
原爆は威力がとても強い為、爆発時に周囲の空気分子を爆風にのせて遠くに押し出します。すると爆心地は擬似的な真空状態となり、周囲との気圧差が生じます。
この気圧差を埋めるため、爆風の後は【吹き戻し】と言われる強力な突風が、前述の火球に向けて発生します。※最初の爆風ではなく、むしろこの吹き戻しの突風により倒壊した建物も多かったようです。
この突風がキノコ雲の火球へと導かれ、キノコ雲の『柱』の部分が形成されます。
キノコの『傘』
核爆発によって非常に高温な火球が発生し、上昇していきます(周囲より熱を持つ気体は上に上昇する性質があるため)。
標高が高くなるにつれて周囲が徐々に冷えていくため、火球に含まれていた水蒸気が凝結して雲になります。
かつ十分な高度に達すると、雲上部の冷たい空気に上昇を押さえつけられる形で、今度は雲が横に広がりキノコの『傘』の部分が形成されます。ちなみにキノコ雲の傘の内部では、上図のように気流の渦巻きが発生します。
これら一連の流れがキノコ雲の形成メカニズムです。
質量とエネルギーの関係
原子爆弾の核エネルギーの発生源として、【質量エネルギーを爆発のエネルギーに変えている】という話もあります。
核爆発の際にこの世から少しだけ質量が消えてなくなる。そして、かのアインシュタインの有名な方程式から、わずかな質量が消失するだけでも大きなエネルギーを生じる。だからあれだけの威力になるんだ、というロジックです。確かに、こういった見方も出来ます。これまでの説明とは視点が異なるだけで、実は同じ事を言っています。
核分裂で放出される核エネルギーと、核分裂により消失する質量との間に、かの有名な式が当てはまることは事実です。
ただ核エネルギーと質量エネルギーを、高校物理で習う運動エネルギーと位置エネルギーの関係のように、互いに変換可能なエネルギーとして安易に捉えると少し誤解が生じてきます。この辺りは割と奥が深い問題なので別の機会に記事にします。
水素爆弾と原子爆弾の関係
ちなみに上記に関して、実は原子爆弾は水素爆弾と密接に関わっています。
ご興味あれば、以下の記事↓もご参照ください。
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今回はここで終わりにしたいと思います。
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