第1次産業革命を成し遂げたイギリスは、約200年にも渡り世界の覇権国家となりました。そんなイギリスは、たった1本の法律【赤旗法】をきっかけに覇権を失います。今回はイギリスと産業革命、赤旗法の関係について解説していきます。
実際にはイギリスが覇権を失った要因は他にもありました。しかし赤旗法の成立を1つのきっかけとして、イギリスは第2次産業革命に乗り遅れ国力を弱くしたのも事実です。
産業革命は【革命】と呼称されるだけあって、国家間のパワーバランスに対し劇的な影響を与えます。【革命】に乗り遅れた国は、如何なる覇権国家であろうとも衰退していきます。日本も他人事ではありません。
かつての覇権国家イギリス
蒸気機関に代表される第1次産業革命をたった1国だけで成し遂げたイギリスは、18世紀から19世紀の200年近くに渡り、世界に冠たる覇権国家・大英帝国として我が世の春を謳歌していました。
イギリスの通貨ポンドは、現在の米ドルに相当する世界の基軸通貨でした。
現在の覇権国家アメリカですら、1920年代~現在に至るまでソ連・日本・中国といった国々の追い上げに何とか対処しながら、100年間の覇権を何とか保ってきたことを考えると、200年の覇権を保った当時のイギリスが如何に圧倒的な存在だったかが分かります。
そんな産業革命の最中にあったイギリス社会や一般庶民の暮らしぶりについて、当時のありのままを描写している以下の本は興味深くて面白いです。Yahooだと高いのでAmazonや楽天経由で購入した方が良いです。
世紀の失策『赤旗法』
我が世の春を謳歌していたイギリスですが、時代は自動車を始めとする重化学工業社会、第2次産業革命に差し掛かっていきます。
イギリスもこの大きな波に乗り遅れないよう、国を挙げて自動車の開発に取り組む必要がありました。そんな状況下にあった当時のイギリス政府が打ち出したのが、世紀の失策『赤旗法』だったのです。
赤旗法とは?
この馬鹿げた法律の内容は以下の通りです。
- 自動車を走行させる際には、赤旗を持った者が自動車を先導しなければならない。
- 自動車の制限速度は、郊外で時速6.4km以下、市街地で3.2km以下とする。
このような速度ではもはや自動車の意味がありません。加えて【赤旗係の人】をわざわざ雇う必要があります。
想像しただけで笑っちゃいますよね。
イギリスの自動車メーカーは、このたった1本の法律のために「より速く、より快適に」の技術革新に向けたインセンティブを大きく削がれました。
そんな最中、アメリカやドイツの自動車メーカーが技術革新と共に躍進していきます。
無論、これに付随して世界のパワーバランスがアメリカ・ドイツに傾いていったことは言うまでもありません。一方のイギリスは国力が細り始めます。
何故、このような法律を作ったのか?
これには当時の馬車業界からの圧力が関与していました。当時、乗合バスに客を取られつつあり危機感を募らせた馬車業界の関係者たちが、イギリス議会に圧力をかけて赤旗法を制定させたのです。
彼らが一般人に対して自動車の危険性を実態以上に煽ったことも影響しています。どちらかと言えば、馬が市街地を走っている方がよっぽど危険だったと思うのですが(実際、馬に蹴られる等して亡くなる方は多かったようです)。
更には当時の雇用の受け皿となっていた馬車(今でいうタクシー)が自動車に置き換わると、失業率が悪化するという当時のイギリス政府の懸念もありました。短期的に見れば、確かにそのような側面もあるでしょう。
しかし自動車産業は非常に裾野が広い産業で、長期的には多くの雇用を生み出します。しかも自動車産業が栄えれば国内の雇用が安定するだけでなく、対外貿易でも有利になるという美味しい産業なのですが。
第1次産業革命の覇者としての慢心・油断もあったのでしょう。当時のイギリスは目先の利に固執し、大局的な戦略に欠けていたのかも知れません。
『赤旗法』の教訓を日本は活かせるか?
今の時代はAIやIoT、自動運転に代表される第4次産業革命に差し掛かろうとしています。
日本はこの波に乗れるのでしょうか?
国が豊かになると政府も国民も守り意識に入りがちです。進取の気性が削がれ、かつてのイギリスのように「今の安全で安定した暮らし」を持続させようとする為に大局観を失い、目先の利益優先になる傾向があります。難しいですが、この意識を打破する必要があります。
かつて高度経済成長を達成した日本の陰には、戦後貧しく失うものが無い時代に勃興した様々な民間企業がありました。産業革命の波に乗るには、終戦直後のような半ば捨て身の覚悟が必要なのかもしれません。
現代の日本はどうでしょうか?赤旗法が制定された当時のイギリスそっくりの状況に居るように思えてなりません。
日本ではタクシー業界の雇用を守る為に、Uberのようなライドシェアが法律で厳しく規制されています。同様のことが自動運転で起こったとしても不自然ではありません。その場合、日本は大局的に見て国力を大きく削ぐことになります。
あるいはマニュアルよりも確率的に安全な自動運転の危険性が必要以上に煽られ、法で過剰に規制されてもおかしくありません。
他の例を挙げれば、所謂ドローンは国内で強く規制されています。そのせいもあってか、今年の東京オリンピックの開会式を飾ったドローンは、国内企業ではなくIntel社提供の技術に頼っていたようです。
法による規制も国家運営に欠かせない要素ではありますが、大局観を欠いた法の制定は大きな機会損失を生じさせます。
衰退しつつある日本が再び技術立国として輝くために、かつてのイギリスの二の轍を踏まないよう、現代日本にはもう一度捨て身の覚悟が求められているように考えます。
今回はここで終わりにします。
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