QRコードは世界中の決済で使われていますが、元々は全く別の目的で開発されました。しかも発明したのは日本人です。
本記事では、そんなQRコード開発の経緯と歴史、読み取りの仕組みについて解説していきます。
なお今回の記事は、以下の書籍を参考にしています。QRコードに関する技術や開発秘話等が詳細に語られています。
なぜ、日本で開発されたのか
これには、トヨタ自動車が関わっています。
トヨタと言えば「カンバン方式」が有名で、工場から届いた部品が何で、何処から来たのかなど様々な情報を記録する必要があるのですが、手書きの伝票では効率が悪すぎました。
そこで当初は手書き伝票の替わりにバーコードに情報を格納して対処していましたが、これには限界がありました。バーコードの容量が少なすぎたのです(英数字で最大20字程度)。
QRコード誕生前のトヨタでは、1つ1つの部品を管理する上でバーコードを『部品毎に』10個程度貼り付けて、これらを全て読み取っていたようです。
これではあまりに不便。作業者達の苛立ちと悲鳴が後を絶ちませんでした。そこで日本のデンソーという会社(前身はトヨタの開発部門)がQRコードの開発に乗り出しました。
QRコードの開発秘話
QRコードを発明するきっかけになったのは、なんとデンソー社員が昼休憩の時間に打っていた囲碁でした。
バーコードは横方向にしか情報を持たないのに対し、QRコードは囲碁の碁盤のように縦横に二次元の情報を持ちます。
そのため格納できる情報量が多く、漢字やかな文字でもたった1つのQRコードに1800字程度の文字数を持たせることができます。本記事のここまでの文字数の3倍です。結構な情報量ですよね。
なぜ「あの形」なのか?その深い理由
QRコードには情報量を増やすだけでなく、「①素早く読み取れ、②QRコードの一部に油汚れや破損があっても正確に読み取れるようにして欲しい」という自動車工場らしい要望がありました。
隅のマークは何?
①の素早くコードを読み取る上では、"ここにQRコードがありますよ!”という目立つマークをつけることで改善しました。QRコードには隅に独特のマークがありますよね?
これはQRコードの存在位置を表す為のマークです。ただし、QRコードの近くに似たようなマークがあれば、読み取り機は「ここにもQRコードがある?」と勘違いしてしまいます。
この誤認識が起こらないよう、開発者たちはあらゆる媒体に印刷されている図形や文字をすべて白黒像に直した上で、最も存在確率の低い図形パターンを探したのです。
その結果として3重の四角形、かつ白黒の幅の比率が1:1:3:1:1の比率を持つマークが最も出現率が少ない図形パターンであることが分かったのです。コード読み取りの『黄金比』と言えますね!
この図形パターンならQRコードを360度どの方向から読みとっても、白黒の比率は1:1:3:1:1となります。つまり、QRコードはどの方向からでも読み取りが可能なんです。よくスマホのQRコード読み取りアプリで「この枠に収めてください」と言わんばかりの枠表示がされますが、あれは単にスマホのカメラが読み取れる画角範囲を示しているだけであり、QRコードがあの向きでしか読み取れない訳ではありません。
なお、隅のマークは必ず3つと決まっています。4隅全てに存在するとQRコードの上下左右の見分けがつかなる為に敢えて3つにし、上下左右方向の補正を行います。
QRコードの読み取り速度は従来型バーコードの5倍にも達しました。まさにQR(Quick Response)コードと言えます。
QRコードは破れていても読み取れる!
前述の「②QRコードの一部に油汚れや破損があっても正確に読み取れるようにして欲しい」という要望もありました。これは誤り訂正符号という技術を活用して、要望に応えました。
↓PCでご覧の方は試しにスマホで読み取ってみてください。破れてますが読み取り可能です。
QRコードには、コード自体が破損していても情報を復元する機能が備わっています。これを誤り訂正符号と言います。
このような高度な技術を活用するにあたり、デンソー社員は東大教授が出版した符号技術の書籍を独自に学びながら苦労して開発に取り組んだそうです。
ちなみにQRコードでは、汚れや破れ等により最大約50%(QRコードの種類によります)のデータが破損しても、元の情報を完全に復元することができます。誤り符号訂正とはすごい技術ですね!
従来型のバーコードの技術も面白いので是非↓。
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世界中で使われる理由
どれだけ優れた技術であっても、これを国際的な標準規格にするのは大変です。特に日本企業はこれを苦手としており、優れた技術が国際標準になれず日本国内だけで独自の進化を遂げた結果、日本はガラパゴス化してしまいました。
大陸から大きく離れたガラパゴス諸島には、外敵の侵入がなかった為に独自の生態系の進化が起こりました。しかし生存競争に弱く、外来種により種の存続が脅かされています。【ガラパゴス化】という言葉には、日本の国内製品が最終的に外国製品に乗っ取られてしまうことへの懸念が含まれています。
それではデンソーは、どのようにしてQRコードを国際標準にすることができたのでしょうか?その鍵は「特許料の無償化」にありました。「無償でQRコードを使えるなら」と世界中で使われはじめ、2014年には「欧州発明家賞(ノーベル賞のようなもの)」を日本で初めて受賞しました。
ところでQRコードが浸透している国として最も有名なのは、中国ではないでしょうか?偽札の流行で現金に信用力が無かった中国ではネット決済が普及しやすい環境にありました。
当初は「音波」によるネット決済が考案されていました。例えば消費者が中国企業であるアリババのサイトにアクセスすると、サイトを通してスマホから音波が流れる仕組みになっており、これを自動販売機等に「聞かせる」ことで決済をするというものです(これはこれで面白いですね)。
しかしながら音波の読み取り性能が悪く、この手法は数年で廃れました。そこで白羽の矢が立ったのがQRコード決済でした。
特許の無償化には欠点もあります。当然ながら特許収入が入らないデンソーは得をしません。しかしQRコード技術の無償公開によって、この技術の用途革新が為されていったのも事実です。
一例として挙げたQRコードによる「決済」は、中国で普及した後にデンソー側がその用途での有用性に気付いた経緯があります。つまり技術を利用者に無償公開することで、その利用者側に用途を新たに開拓して貰えるメリットが生じたのです。
その結果をどう営利事業に活かしていくか課題は残りますが、Google,Amazon,Netflixなども初めは無償、もしくは低価格路線でサービスを普及させていきましたよね。特許の無償公開という手段も、世界のプラットフォームを握るうえでの一つの選択肢にはなりそうです。
今日はこの辺で終わりにします。
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