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【なぜ違う!?】戦闘機/旅客機で酸素マスク必要/不要が分かれる理由

戦闘機/旅客機の乗組員や乗客には酸素マスク着用が必要/不要という大きな違いがあります。なぜこの違いが生まれるのか?

戦闘機と旅客機の設計思想の違いにも触れ、過去の歴史的経緯も紹介しつつ、その理由を解説していきます。

気圧と酸素マスクについて

まず背景として。人間の肺は、外部環境と人体内部の気圧差を利用して酸素を取り込む仕組みになっており、外部の気圧が下がると酸素がうまく取り込めなくなります。加えて、気圧が下がれば空気分子(酸素含む)が存在する密度が低くなるので、酸素の絶対量も下がります。このままでは高山病になってしまう為、酸素マスクが必要になります。

余談ですが、標高が高いと酸素が薄くなると言われます。しかし、酸素濃度(空気分子中の酸素の割合)は地上と上空で変化しません。エベレスト山頂と東京の地上でも同じ酸素濃度です。あくまで問題なのはあくまで気圧なのです。

旅客機で酸素マスクが不要な理由

なぜ、旅客機にいる人間達は酸素マスクをせずに快適な空の旅を満喫できるのでしょうか?

答えは単純で、旅客機内の気圧が高く保たれているからです(これは【与圧】と呼称されます)。旅客機内の気圧は、下限でも地上の3/4程度になるよう設計されており、それ以上低くならないようにしてあります。ジェット機であれば、ジェット機関から空気を機内に取り込み、空気を圧縮してから(=気圧を高くしてから)機内に空気を供給することで、機内の気圧を高く保ちます。

これにより、乗客はフライトの間でも酸素マスクをつける必要がないのです。ただし、そんな快適さの裏には大きなリスクがあります。

飛行機の中でも旅客機は特に危険!?

機内の気圧を高く保つことは実は危険なのです。旅客機は言わば膨らんだ風船と同じで、外部よりも内部の気圧を高くしています。具体的にこれの何がまずいのか?ダメージに著しく弱いのです。機体のどこかにわずかな穴が開いただけでも、膨らんだ風船のように機体もろとも【破裂】してしまいます。

一方で、ある程度のダメージを受ける前提で設定されている戦闘機は、旅客機と異なり機内の気圧を低くしており(=いわば風船を常に萎ませた状態)、銃弾が数発当たったくらいでは【破裂】しません。しかし、その為に戦闘機内の気圧は常に低くされており、戦闘機パイロットは酸素マスク無しではまともに呼吸が出来ない環境に在るのです。

頻発していた旅客機の【破裂】事故

旅客機と戦闘機は正反対の設計思想であり、旅客機は乗組員の快適さを重視する代わりに、安全性を比較的軽視した航空機であると言えます。

過去、第二次世界大戦の後にジェット機関の普及も相まって旅客機は本格的に商用化され始めました。しかし程なくして原因不明の墜落事故が多発し、数多くの人名が失われます。

多くの死者を出した英国製ジェット旅客機 : コメットMk.I

原因は機体の金属疲労にありました。上空を飛ぶ度に機内に気圧を与える行為は、いわば風船を膨らませる⇔萎ませるを何度も繰り返し実施する行為に等しい訳です。風船の外殻はゴムですが、旅客機の外殻は金属ですから金属疲労は当然起こります。

疲労箇所に穴が開き機体が【破裂】していた訳です。原因が判明して以降、航空会社は安全対策に本格的に乗り出します。運航前の入念なチェック体制に加え、仮に金属疲労で一部に亀裂が入っても、これを一部だけに食い止める手法も確立されていきます。

ちなみに昔の旅客機の窓はコメットMk.I(上写真)のように完全な四角形でした。窓が四角形だとその角に応力が集中し、亀裂が入りやすかったのです。そこで窓の形を変え、今日の丸みを帯びた窓が採用されました。

このように人類の航空科学は、多大な人命の犠牲により進化してきたのです。そして、恐らくこれからも同様にして進歩を続けることでしょう。

今回はここで終わりにします。

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